Hannah Arendt – Movie

『ハンナ・アーレント』を見てきた。これから先は映画の内容に触れています。日本放映は10月になるときいているので、先に映画の内容を知りたくない人はここから読まないように。でも、映画は絶対おすすめです。

映画は、アーレントが雑誌『ニューヨーカー』の特派員として、アドルフ・アイヒマンの裁判を取材して書き上げた短い本『イェルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告』の発行にまつわる、彼女の身の回りに起きた出来事について描かれていた。

アイヒマンは元ナチス親衛隊員で、ホロコーストに深くかかわった。ドイツの敗戦後、国外逃亡したがアルゼンチンでモサドにさらわれ、イスラエルにつれてこられて、人道に対する罪で裁判を受けて死刑になった。

映画の中でアイヒマンの裁判シーンもでてくるのだけど、このシーンをみていて思い出したのは、まあ時節柄もあるけど、大阪の橋下市長のことだった。アイヒマンは裁判のなかで何度も「戦争という状況の中で、わたしはただ命令に従っただけだ」と繰り返す。アーレントはアイヒマンを「悪魔などではなく、どこにでもいる普通の人間」と評し、全体主義のなかで思考を停止することで、人間はどこまでも残酷になれるという。

アイヒマンをみながら橋下市長に思いをめぐらせていたのは、彼が、従軍慰安婦についての日本政府の見解は、2003年の安倍政権が「強制連行はなかった」と公言したことに基づいていて、戦時下の「銃弾の雨嵐のなかを走る猛者を鎮めるために」慰安婦制度は必要だったと言っちゃったことから(ほんとに言っちゃってっていう表現がぴったりの軽さだったけど)、海外メディアからバッシングを受けたので、海外記者向けの言い訳会見を開いた。 で、その席でもなお慰安婦必要説をまげなかったし発言を取り消さなかった。彼がどこまでも「日本は誤解されている」って言い張っていることとかをみていると、ほんとうに心底そうおもってるんだとおもう。

そして、彼がなぜ、疑いもなく心の底から真実であると主張できるのかと考えると、彼が寄り添っているのは俯瞰的な意味での善悪ではなくて、「誰もがそう思っているであろうこと」、つまり彼のいう「腹を割って」話すことが彼にとって重要であり「真実」であり「正直」であることなんだ。 彼にとっては、重要なことは腹を割ることだから、そこからみえた中味が何であるのには大した意味はないし、中味を深く考える必要なないのだ。

そういう人がもし、戦時下でアイヒマンのような立場にたてばどうなるだろう。目の前に降りてくる命令に従うことが最重要なことであり、命令に従ってとる行動の意味はたいして重要なことじゃなくなるのは必至だろう。

アーレントが若いころ、大学の授業で「Thinking! Thinking! Thinking!」と、深く思考することを説くハイデガーに深く感銘をうけたシーンがある。映画ではあれ、うわぁ、ハイデガーの授業!! 受けてみたかった!とちょっと感動したことはさておき、「深く思考する」ということをもう一度考えさせられた。

NYタイムズの映画評のなかで、監督のメッセージとして「私は伝道者ではない。自分が興味を持った女性の人生を描いているだけ。もしこの映画にメッセージがあるとしたら、それはイデオロギーやファッションを追いかけるのではなく、自分の頭で考えないといけないということだろう。ハンナはそれを「手すりなしで思考する」とよんでいた」とあった。

http://www.nytimes.com/2013/05/26/movies/hannah-arendt-directed-by-margarethe-von-trotta.html?pagewanted=all&_r=0

アーレントはイスラエルに対しても、アイヒマンを裁判にかける権利はあるのかと問う。映画のシーンにはなかったけど、アメリカにも日本に原爆を落としたことは正義なのかと問うている。アーレントが裁判の様子をかいたのは60年代のアメリカ。まだホロコーストの傷も生ナマしい頃だった。

当然、同じユダヤ人同士からも激しくバッシングを受けるし、哲学の教授を務めていたニュースクールでも、教師陣からつるし上げられる。そのさなか、好奇心をもって集まっているであろう学生の前で講義をする。この講義が一番の映画のみどころだった。映画をみにきていた人たちはジューイッシュの人が多かったようにみうけられたけど、映画の講義の終わりに、皆拍手でアーレントを教壇から送り出していた。

Advertisements

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s